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那覇地方裁判所 昭和53年(ワ)287号 判決 1979年3月27日

原告 又吉京子

<ほか八名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 池宮城紀夫

同 照屋寛徳

同 島袋勝也

被告 沖縄県

右代表者知事 西銘順治

右訴訟代理人弁護士 澤村卓

主文

被告は、原告又吉に対し金六九万七九二四円、同平良に対し金九六万九〇三二円、同田場に対し金九三万三六六〇円、同平に対し金七九万六〇五〇円、同狩俣に対し金四六万八〇九二円、同知念に対し金四七万四六〇〇円、同島袋に対し金四九万二〇二八円、同与久田に対し金六〇万六三九四円、同保田に対し金一二万四六三六円をそれぞれ支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告ら

主文同旨の判決並びに仮執行の宣言。

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決。

《以下事実省略》

理由

一  原告らが、いずれもゆうな学園に勤務する被告の地方公務員で、別表の「勤務年月日」欄記載の期間、原告保田を除く他の原告らは、保母として、原告保田は、主事としてその職務に従事したこと、原告らの勤務時間については、勤務時間条例二条、勤務時間規則二条により、一週間四四時間と定められていること、ゆうな学園において、被告は原告に対し、右正規の勤務時間とは別に、週一回ないし二回いわゆる宿直勤務を命じ、右宿直勤務は、通常の勤務時間に継続延長して、午後一〇時から翌日の午前六時までの八時間、入園児の収容施設(寮)において宿直するものとされていること、原告らは、それぞれ同表の「勤務年月日」欄記載の期間に、同表「宿直回数」欄記載の回数宿直勤務した結果、同表「時間外勤務時間数」欄記載のとおりの時間、正規の勤務時間を超えて、午前五時から午前六時まで勤務し、また、同表「深夜勤務時間数」欄記載のとおりの時間、正規の勤務時間を超え、かつ、深夜である午後一〇時から翌日の午前五時までの間勤務したことは当事者間に争いがない。

二  ところで、被告は、原告らの本件宿直勤務は、その勤務内容等実質において、労基法四一条三号にいう監視又は継続的労働、若しくは同法施行規則二三条にいう継続的業務に該当するから、右各法条に定める所轄の労働基準監督署長の許可を受けた者でなくとも、かかる労働に対する対価としては、時間外勤務手当の支払義務は発生しない旨主張するけれども、仮に本件宿直勤務が被告主張のごとき実質を有する労働であるにしても、本件において、労基法四一条三号や同法施行規則二三条に規定する労働基準監督署長の許可を受けていないことは、被告の自認するところであるから、被告は右各法条を適用することによって原告らに対する本件時間外勤務手当の支払義務を免れることはできないというべきである(東京高裁昭和四五年一一月二七日判決、行判集二一巻一一・一二号一三五六頁参照。)けだし、右各法条において労働基準監督署長の許可を要するとした趣旨は、監視又は断続的労働と一般の労働との区別は、実際には困難な場合が多く、監視・断続労働であることを口実に不当な労働時間形態がとられることもあり得るため、それが監視・断続的労働に該当するか否かを事前に労働基準監督署長に判断せしめ、労働者の保護を図ろうとしたところにあると解されるからである。

したがって、右被告の主張は採用できない。

三  次に、原告らの時間外勤務時間のうち深夜勤務時間を除いた時間及び深夜勤務時間は、前記のとおり当事者間に争いがなく、また、原告らの時間外勤務に対する給与条例上の割増率及び原告らの右時間外勤務時間から深夜勤務時間を除いた時間に当時の原告らの各勤務一時間当りの給与額の一〇〇分の一二五を乗ずると別表「時間外勤務手当額」欄記載のとおりとなり、また、深夜勤務時間に当時の原告らの各勤務一時間当りの給与額の一〇〇分の一五〇を乗ずると同表「深夜勤務手当額」欄記載のとおりとなることについても当事者間に争いがない。

そうすると、原告らはいずれも被告に対し、同表「時間外勤務手当額」欄記載の金額と同表「深夜勤務手当額」欄記載の金額の合計額である同表「時間外勤務手当合計額」欄記載の金額の時間外勤務手当請求権を有するものというべきところ、原告らが自認するとおり、右金額のうち、既に被告からそれぞれ別表「宿直手当額」欄記載の金額を受領したので、それを右時間外勤務手当合計額からそれぞれ控除すると、その残額は同表「時間外勤務手当残額」欄記載のとおりとなる。

四  次に、附加金の請求について判断するに、被告が原告らに対し、前記の別表「時間外勤務手当残額」欄記載の時間外勤務手当を支払っていないことは弁論の全趣旨によって明らかであり、被告が右時間外手当を支払わなかったことについて正当の理由を有するか又は原告らの請求が権利の濫用にわたるなどの事情がない限り、労基法一一四条によって被告は原告らに対し、右時間外勤務手当と同額の附加金を支払うべき義務があるというべきである。

五  被告は、原告らの本件時間外勤務手当の請求及び附加金の請求が権利の濫用である旨主張するので検討するに、《証拠省略》を総合すると、およそ次のような事実を認めることができる。

(一)  原告らの所属する県職労においては、ゆうな学園を含む社会福祉施設において、夜間業務がほとんど宿直によってなされていて、一日八時間労働制が確立されておらず、労基法違反の勤務形態が採られている現状を改善すべく、宿直としてなされている夜間労働を正規の勤務時間に組み入れるべきであるとして宿直廃止の運動を展開し、昭和五〇年五月ころ、完全三交替制による夜間労働の正規労働時間化、夜勤月六回以内とし、そのために必要な人員増を求めるとの運動方針を定めた。これは、自治労が前年度から厚生省に対して行っていた要求に副うものであった。

(二)  厚生省においても、同年二月二六日開催された社会局関係主管課長会議において、社会福祉施設に働く職員の労働関係について、同年度から労基法違反の実態の改善整備を行う旨態度を明らかにしたこともあって、被告は、同年四月ころ、ゆうな学園を含む社会福祉施設における勤務体制の改善及び労基法等による法定労働条件の整備を図るための方策を樹立するため、「社会福祉施設における労働改善協議会」を設置する一方、同年六月ころ、県職労執行部に対し、団体交渉のための事務交渉において、宿直勤務に関して存在する労基法違反の実態改善を目的とする交替制勤務を団体交渉の議題とすることを打診した。その際の被告側の腹案は、二直変則二交替制の勤務割りであって、これは前記社会局関係主管課長会議において、厚生省が推した方式であり、日勤(平常、早番、遅番)及び変則夜勤の二直の組合せによるものであるが、早番では午前六時出勤、遅番では午後一〇時勤務終了といった早朝深夜の出退勤を予定するものである。ゆうな学園に関しては、一寮六名の職員配置とすることにより、二直変則二交替制を実現できるというのが被告の腹案であった、

(三)  県職労執行部においては、右申入れを受けて、同年六月三〇日ころ、首里厚生園講堂において、「福祉施設連絡会議」を開催して、交替制勤務への移行の問題について、社会福祉施設現場の意見を徴したところ、現場の者は、交替制勤務へ移行すれば早朝、深夜の出退勤が余儀なくされることなどを理由に交替制そのものが議論の余地なしとする者が多く、執行部は、この問題を団交事項とすることは現場の混乱及び組織の分裂につながるとみて、交替制勤務の問題はこれ以上持ち出さないことに方針を転換し、被告に対し団体交渉事項から除外するように求めた。

なお、右連絡会議には、原告又吉、同与久田、同保田の三名が出席していた。

(四)  被告は、反対を無視して交替制勤務に移行することは現場の混乱を招くとみて、この問題については継続検討する旨を表明し、とりあえず、同年一〇月に児童福祉施設に対し合計一四名の非常勤職員を配置し、ゆうな学園には二名が配置された。この結果、ゆうな学園における保母の一寮四名の配置は一寮五名に増加し、宿直回数は月七・五回から六回になり、昭和五〇年春闘におけるこの問題は一応の終熄をみた。

(五)  前記社会福祉施設における労働改善協議会は、同年一二月二二日、被告の企画調整部長宛に「社会福祉施設における勤務体制の改善(案)について」と題する報告書を提出したが、それによると、ゆうな学園の養護部門に関しては、一般棟六名による交替制勤務、重度棟は複数(二名)六組による交替制勤務とすることが適当とされた。

(六)  昭和五一年に入り、被告から県職労執行部に対し、社会福祉施設における交替制勤務の問題を団体交渉の正式議題に載せたいとの打診がなされたが、執行部は、組合の意見がまとまっていないことを理由として保留を要望し、被告も県職労との対立を回避するためそれ以上の無理押しをせず、そのままとなった。

(七)  その後、昭和五二年四月から、ゆうな学園における保母の配置は一寮六名となり、宿直回数は月五回に減じたが、依然として労働省が宿直の許可基準として定めた昭二三・四・一七基収第一〇七七号による週一回の割合を超過しており、それが一つの理由となって、沖縄県労働基準監督署長の許可を得られないまま、今日に至っている。

以上認定の事情からすると、労基法違反の宿直勤務による時間外勤務手当請求権の発生が容認される場合、これは夜間勤務の正規労働時間化の要求が実現をみることを意味し、県職労が目標とした夜勤月六回以内の点もすでに実現している一方、被告においてはその計画にかかる二直変則二交替制を実施するために必要な一寮六名の人員配置をすでに実現しているのであり、しかも、原告らは、二直変則二交替制の実施に伴って生ずべき早朝及び深夜の出退勤の不利益を、その希望どおり、被らずに済んでいるのであって、かかる現状を前提とした場合、原告らの請求は、少くともその附加金の請求に関して、権利の濫用にわたるとの疑いが少なからず存在する。

しかしながら、交替制勤務採用に関する被告の具体的提案が県職労の下部組合員にどの程度周知せしめられたか、これに対する県職労ゆうな分会の対応如何、その態度決定に原告ら個々が果たした役割如何などの点は、原告らの請求が権利の濫用にわたるか否かの判断に際して是非考慮すべき点であると考えられるのであって、これらの点に関しては十分な立証がなされていないのみならず、ことは労働条件に関する問題であるから、労働側との間で円満な合意を得ようとした被告の方針はそれ自体非難に値しないにせよ、県職労執行部の下部との摩擦を懸念する態度を慮ばかるあまり、被告の取組み方が消極に流れた印象は拭えないのであって、無許可宿直という労基法違反の事態解消に至らない責任の全てを原告らに帰するのは失当であるというべきである。

右の次第で、原告らの本件時間外勤務手当及び附加金の請求を権利の濫用にわたるものとすることはできず、この点に関する被告の抗弁は採用できない。

六  そうすると、被告は、原告らに対し、時間外勤務手当及び附加金として別表「請求金額」欄記載の金員の支払義務があり、よって、原告らの本訴請求は全て理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用し、なお、仮執行の宣言の申立については、相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲守孝夫 裁判官 喜屋武長芳 照屋常信)

<以下省略>

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